「ゆきのはなとこぎつね」 訳:藤坂 容子さん
サクラや、ナラや、カシのきのしげるもりのなかに、いっぴきのこぎつねがすんでいました。ときがめぐり、もりはさまざまにいろをかえます。
このもりのなかに、いっぽんのきがありました。ふゆになるとはっぱがのこらずおちて、やがてまっしろなはなにおおわれます。
はなのにおいが、まいあさこぎつねをねむりからさまします。こぎつねは、ぴょんぴょんっときのところにはしっていって、ねもとにちょこんとこしかけます。そして、あおいおそらをながめるのです。
やがて、きとこぎつねは、すっかりなかよしになりました。
よるには、おそらにまあるいわがうかびます。わはきのまわりをとりかこみ、きらきらひかるおほしさまが、そのわのなかで、おおきく、うつくしく、かずかぎりなく、かがやきます。
あるあさ、こぎつねは、ブンブンいうおおきなおとでめをさましました。めをあけてみてみると、とてつもなくたくさんのハチが、しろいはなをでたりはいったり。
こぎつねはもうびっくりぎょうてん。でも、きがいいました。「こわがらなくてもだいじょうぶ。ちょっとくすぐったいだけさ。ハチがはなのみつをあつめにくると、ぼくはとってもうれしいんだよ」
ふうん?こぎつねはとことこハチのあとについていきます。すにはなさきをよせてみると、そこには、べとべとの、あまーいみつがありました。それからというもの、あさ、ブンブンというおとでめをさますと、こぎつねはすっかりうれしくなりました。
やがて、だんだんあたたかくなり、あつさによわいしろいはなは、しおれてえだからおちはじめました。
あるひ、こぎつねは、いつもきをとりかこんでいるまほうのわのなかに、しろいはながいちりんおちているのをみつけました。それからあさがくるたび、じめんのはながふえていきました。
こぎつねはかなしくてしかたありません。
それでも、よるになると、そらにはまたあたらしいおほしさまがあらわれました。まほうのわのなかに。きのうえに。こぎつねのうえに…。
もう、きには、いちりんのはなものこっていません。ハチもやってきません。ただ、いしのようにかたい、ちいさなみが、びっしりとえだをおおっているだけです。
よるには、まほうのわのなかに、なんびゃくまんものおほしさまがかがやき、きのみはじゅくしてじめんにおちます。まほうのわのなかに、じめんがあらわれ、あめがふって、おほしさまがかがやきます。
こぎつねは、たびにでることにしました。なかよしのきのためにあたらしいはなをさがしにゆくのです。こぎつねときはおわかれをしました。きは、
「いいかい、けっしてかなしんだりしちゃいけないよ。かなしんだりしたら、まほうがきえてしまう。ぼくたちのおほしさまのわは、いつもきみといっしょだよ。しずかなよるにはいつでもあえるからね」
こぎつねはしゅっぱつしました。ちょっとどきどきしています。だって、いままでいちどだってもりからでたことなんてないのですから。
やがて、こぎつねは、いろとりどりのはなのさくばしょにたどりつきました。
そのさきにはもりがありました。かぞえきれないくらいのき。そして、きのみがたくさんなっていました。
こぎつねは、おなかいっぱいきのみをたべて、それから、きれいないろのはっぱにくるまってねむりました。
あるあさ、ゆきがふりました。めをさますと、なんびゃくまんもの「しろいはな」があたりをおおっていました。
こぎつねは「しろいはな」をしっぽにたんとのせて、いえじにつきました。
でも、おひさまがのぼると、ゆきはとけはじめました。じめんがまたかおをだします。こぎつねはすっかりかなしくなってしまいました。なかよしのきにもっていくはなが、ひとつのこらずきえてしまったのです。
そのとき、とおくに、ぼうっとしろいものがみえました。
あ、まだゆきがのこっている。こぎつねはぴょんぴょん、ぴょんぴょんはしっていきます。
そこはしっているばしょでした。
そこは、あのもりでした。なかよしのきが、ゆきのようなしろいはなにおおわれてたっていました。
まほうのわのなかのおほしさまみたいな、たくさんのはなをみにまとって。
まほうのわは、どこまでもはてしなくひろがります。どこまでも、はてしなく、とおいおそらのかなたまで。
そして、えいえんのときのわが、まためぐりはじめます。